2019年4月10日、世界6カ所で同時記者会見がおこなわれ、イベント・ホライズン・テレスコープ(以後EHT)はブラックホールとその影の存在を世界で始めて画像で直接証明することに成功したと発表した。この成果は米、天文学専門誌「THE ASTROPHYSICAL JOURNAL LETTERS」特集号に6編の論文として掲載された。

EHTは世界各地の望遠鏡を8つ繋ぎ地球規模の仮想大望遠鏡を構成、ブラックホールの姿(事象の地平面)を直接撮影することを狙った国際プロジェクト。
当コラボリー/Beats!サイトでも2015年にEHTの活動成果を取り上げている「天の川銀河中心に潜む超巨大ブラックホール周囲の磁場構造を解明

引用元:国立天文台

ご存知のようにブラックホールは高密度・大質量の天体で、あまりに強い重力のため光でさえその重力圏から脱出ができないといわれている。そのため実際は見る事が出来ない天体だ。

では今回は何の撮影に成功したかというと、ブラックホールの影、「ブラックホールシャドウ」だ。ブラックホールに近い位置を光が通過すると、光はブラックホールの重力に捕まり飲み込まれてしまう。やや遠い距離を光が通過する場合は、ブラックホールの重力によって進行方向が捻じ曲げられるため本来は地球に届かない光も地球に届くようになる。
結果、ブラックホールが存在すると思われる空間は光が出てこれない為に黒く、ブラックホールの周辺は、(地球からみて)ブラックホールの向こう側からくる光がブラックホールの重力によって偏向され(重力レンズ効果)リング状の光になって見えると予測されている。これがブラックホールシャドウだ。

発表によると今回は、地球から超遠方の5,500万光年の距離にある、おとめ座銀河団の楕円銀河M87の中心核が観測対象とされた。この超遠方を高い分解能で観測できるのは複数の望遠鏡の観測データを集約・分析可能としたVLBI (Very Long Baseline Interferometer; 超長基線電波干渉計)技術による。
日本の研究者もアジアのパートナーと共にアジア天文台チームとしてハワイのジェームズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡の運用を担った。

2017年4月5日・6日・10日・11日に、M87 中心核の観測が行われました。各観測局でハードディスクに記録されたデータは、米国マサチューセッツ州のMIT ヘイスタック観測所とドイツ・ボンのマックスプランク電波天文学研究所へ輸送され、そこで観測データの結合 (相関処理) が行われました。

そして複数の手法により解析がなされ、M87中心核の解析画像からリング状の構造が検出されたというもの。

研究チームの一員である田崎文得 国立天文台水沢VLBI観測所特任研究員は、「日本独自の手法でデータを解析し、ブラックホールシャドウの画像化に成功した時は、本当に興奮しました。さらに画像化の成功を世界中の仲間と共有できたことは、これまでで最も幸せな瞬間の一つです。」とその喜びを語っています。

リングの直径はおよそ42マイクロ秒角(約1.2度の1億分の1)であることから、ブラックホールの質量が太陽の65億倍であることがわかりました。
(中略)
また、理論・シミュレーションとの比較から、リングの非対称性も含めて、ブラックホール近傍のガスが電波を放射しているという描像と合致しました。以上のような慎重な検討を重ねた上で、これがブラックホールシャドウを初めて捉えたものと結論づけました。

私事で恐縮だが科学的な視点でブラックホールというものに始めて触れたのは1975年に刊行されたブルーバックスの「ブラックホール(ジョン・テイラー著)」という本で、SF小説などで描かれる絵空事ではなく、実際に存在が予測され、世界中の天文学者が真剣に研究している事を知る機会となった印象的な本だ(最新の理論や研究観測からすると間違っている内容も恐らく多いと思われるので、現在はこの本をお薦めしません)。少年時代に自分と同じようにこの本を読んでときめいた方もおられるのではないだろうか。

今年は一般相対性理論で予言された重力による光の偏向について、皆既日食を使った歴史的な実験で実証されてから100年の節目の年に当たるとの事で感慨深い。

また今回の快挙は、VLBIといった高度な観測技術の開発、構築、理論的取り組みやスーパーコンピューターによる分析技術など、世界中の研究者が長年にわたり日々積み上げた研究が結集された成果だ。

新たな課題としては、これまで長い波長で観測されている中心部からのジェットとのつながりは解決しなかったとの事。

ブラックホールの強い重力を振り切りどのようにしてジェットが生成されるのか、この謎はブラックホール研究における残された最重要課題といえます。

今後の展望としては

今回の成果は「直接撮像によるブラックホール天文学」の幕開けを意味します。EHTは更に高画質・高解像度なブラックホール画像取得を目指し、望遠鏡ネットワークの拡張やより波長の短い電波を用いた観測の準備を進めています。
(中略)
噴出するジェットとの関連を明らかにするためには、EHTに加えて波長の長いVLBIによる相補的な観測が必要不可欠です。そこで日本・東アジア独自の取り組みとして、私たちは主に7mm・13mm帯で稼働する東アジアVLBIネットワーク(EAVN)を用いてM87ジェットを集中的にモニターし、EHTによるブラックホール画像と組み合せた分析を進めています。

今後の研究に期待したい。