クラウドファンディングを通じたアウトリーチ活動を目指して!|アカデミストに聞いてみた!(前編)
クラウドファンディング(Crowdfunding)とは、不特定多数の人がインターネットなどを経由して、他の人々や組織に財源の提供や協力などを行うことを指します。群衆(crowd)と資金調達(funding)を組み合わせた造語で、最近耳にする機会も多くなってきました。”academist(アカデミスト)”は、2014年4月に立ち上がった日本で初めての学術特化型クラウドファンディングサイトで、研究者自らが発信し、研究資金を集める仕組みです。
クラウドファンディングを通じた研究者のアウトリーチ活動を目指したいという、アカデミスト株式会社代表取締役 柴藤 亮介さんにお話を伺いました。科研費には向いていないテーマだし、共同研究先も見つからないとお困りの方、クラウドファンディングに注目してみませんか。必見です。
アカデミスト株式会社 代表取締役 柴藤 亮介様、取締役 鳥居 佑輝様
聞き手:株式会社ジー・サーチ 新規事業開発室 長谷川 均
インタビュー 2016年2月4日
日本初の学術系クラウドファンディングサイト”academist”
--本日はよろしくお願いいたします。簡単に沿革と事業内容をお伺いしたいと思います。
柴藤 亮介(アカデミスト株式会社 代表取締役):academistは2014年の4月に立ち上がった日本で初めての学術系のクラウドファンディングサイトです。最初の「テヅルモヅル」のプロジェクトをきっかけに、考古学や物理学、合成生物学などの分野を専門とされている研究者に使っていただいているサイトです。
--サイトを拝見いたしましたが、分野もかなりバラエティに富んでいますね。
柴藤:そうですね。人文・社会科学系から自然科学系まで幅広い研究分野が掲載されています。また、10人以上の研究グループで進めるテーマではなく、1~2人で進める基礎研究が多いという特徴があります。
--研究者自らが情報発信してお金を集め、研究する、というのが非常に新鮮でした。クラウドファンディングサイトは日本にいくつぐらいあるのでしょうか。
柴藤:2013年の夏の段階でもう100個近くのサイトがあったので、今数えたらもっとたくさんあるのかと思います。
--学術系のものというのは他にあるのでしょうか。
柴藤:学術系に特化したサイトはないと思います。「学術系も」というのでしたら、例えば、山中教授が集められている”JapanGiving(ジャパンギビング)”のプロジェクトなどがあります。
--学術系に特化されているとのことですが、海外には同じようなものがあるのでしょうか。
柴藤:海外には似たサイトがいくつかあります。アメリカで2012年にできたサイト”Experiment”では、リリース以降、非常に良いペースでプロジェクトが増えています。ドイツやオーストラリアにも同様のサイトはあるのですが、学術系のクラウドファンディングはそこまで流行っているとは言えません。どの国でも地道にプロジェクトを増やしている状況です。
--academistのビジネスモデルはどのようなものですか。
柴藤:プロジェクトが達成したときの成功報酬です。支援総額が目標金額を上回った場合にのみ、手数料をいただいています。
--実際にプロジェクトを応援したいとき、お金はどのようにして送るのですか。御社に払うのですか。
柴藤:弊社のサイトで支援の予約をしていただいて、目標金額が達成した場合にのみ決済が行われます。その後、弊社からチャレンジャーの方の所属機関にお振込をすることになります。
--支払はカードですか。
柴藤:そうです。
academistには様々なプロジェクトが並ぶ
意外に簡単!?クラウドファンディングへの挑戦
--クラウドファンディングに挑戦するときの具体手な手順を教えてください。まず、お金はかからないですか。
柴藤:サイトへの掲載には費用はかかりません。まずは、お問合せフォームからご連絡いただければと思います。
--事前審査はありますか。
柴藤:はい。弊社の担当者と面談を行い、研究内容の魅力についてヒヤリングさせていただきます。また、クラウドファンディング成功のためには、チャレンジャーの方の熱意も重要になるため、そのあたりを含めて一度ご相談の時間をいただいております。
--さて、研究内容が面白く、本人の熱意も確認できました。他に資格審査的なものはありますか。
柴藤:今のところは大学や民間の研究機関に所属されている方に限定していますが、もし在野の研究者や中高生研究者からのお問い合わせをいただいた場合には、臨機応変に対応したいと考えています。
--科研費を取られている方でもいいのでしょうか。
柴藤:科研費を取られている項目と違えば構いません。ただし学振のDC1、DC2(日本学術振興会の特別研究員制度)の場合はちょっと厳しく、規約に抵触しますので、今のところお断りしています。
--動画や研究用資料は挑戦者の方が用意するのですか。
柴藤:研究資料画像は挑戦者の方に準備していただくのですが、動画は我々と一緒にストーリーを考えて、どうやったら魅力的に伝わるかを考えます。
--拝見しましたが、結構凝っていますね。カラスのプロジェクト、面白かったです。
柴藤:内容がとても魅力的でしたので、幅広い方々に注目していただける方法を一緒に考えながら、動画を作りました。
--遠方の方もいらっしゃいますし、実際に会っての具体的な打ち合わせは、そう何度もできないですよね。カラスのプロジェクトも確かシンガポールの方でしたね。
柴藤:シンガポール国立大と総研大(総合研究大学院大学)で、葉山なのでちょっと遠いですね。打ち合わせはメールとかSkypeが多いですね。
--リターンですが、なかなかいい物が思いつかないのではないですか。手伝っていただけるのでしょうか。
柴藤:リターンは基本的には私たちで考え、研究者の方には文章作成に専念していただいています。リターンの内容に同意していただいたら、実際にページに掲載するという流れです。
--研究者には、そんなに負担はないですね。
柴藤:負担がないかと言えば嘘になりますが、私たちのほうでリターンの考案や動画作成などできるかぎり多くの仕事を巻き取ることで、ご利用のハードルが下がるのではないかと考えています。
--リターンはどんな物が喜ばれるのでしょうか。具体的な形がなくてもいいのですか。
柴藤:人気のリターンのひとつが「論文謝辞に氏名を記載する」というものです。また、研究者同行型の博物館ツアーやサイエンスカフェなどの体験型リターンも人気なんですよね。アカデミストで研究者の存在を知り、支援という形でオンラインでのつながりを持ち、体験型リターンでオフラインでつながるというような仕組みができると面白いのではないかと思います。
--論文の謝辞に載るのは喜ばれそうですね。研究に貢献した感がありますし。研究者に生の話が聞けるというのも魅力的かなと思います。
柴藤:リターンとしてのサイエンスカフェは、これまでのサイエンスカフェとは参加者層が違うのかもしれませんね。支援をするという行為が大前提としてあるので、参加者の興味関心がより研究内容に近いのではないかと思います。
--印象に残っているプロジェクトはありますか。
柴藤:一番初めの「テヅルモヅル」の研究が一番印象的でしたね。大変マニアックな生物ですけども、実際にネット発信すると日本全国に「テヅルモヅル」ファンがいて、その方々が一気に集って、ある種コミュニティみたいな物ができあがっていく、というのを実際に感じられたので。
プロジェクト期間中は何をやればいいの?
--プロジェクト期間中、研究者は何をやればいいんですか。
柴藤:SNSやメールを用いた情報発信が重要です。作業量としては1日10分程度なのですが、SNSの利用に慣れている方でないと、はじめは苦労されるかもしれません。ただ、私たちもできる限りのサポートはしておりますので、そこまで心配していただくことはありません。
--目標額が集まったら成功、そうでなければ研究者にも応援者にもお金は動かない、ということですね。お金はどこに振り込まれるのでしょうか。
柴藤:所属機関に寄付金としてお振り込みすることがほとんどです。
--細かいお話になりますが、間接経費を要求されますよね。
柴藤:所属機関さんによりますね。事前に研究者の方に確認していただいています。
--個人の口座への振り込みも選択できるのですか。
柴藤:選択はできます。例えば大学院の在籍中の方とかでしたら個人でもいいと思いますが、やはり大学で働かれている方ですと所属の関係でどうしても厳しいので、大学の方に振り込みます。
--個人だとたぶん雑所得扱いになっちゃいますね。研究開始後、支援していただいた方にこまめに情報を発信したいなと思うのですが、どうすればいいですか。論文になる前の活動ですし、外に出すところがなかないのではと思いますが。
柴藤:サイト内に進捗報告欄がありまして、そこで発信していただければ、支援者に伝わります。定期的にTwitterとかFacebookで自発的に報告されている方もいらっしゃいます。そういったツールをうまく使いながら情報を展開していくといったところですね。
--研究が終わったとき、どこで区切ったらいいのですか。
柴藤:別にどこで区切ってしまっても問題ないです。特に進捗を発信してください、という要望は我々からは全く出していないです。
--義務ではなくて、研究者が自ら発信すると。
柴藤:そうですね。例えば、1年間は必ず発信してください、とやってしまうとある意味それがハードルになってしまうので、そこは研究者の方の判断にお任せしています。例えば、一回サイエンスカフェをやって、そこで区切るということもあります。
--お話を伺い、意外とハードルが低いのかなと思いました。どんな研究者にチャレンジして欲しいですか。
柴藤:やっぱり、面白い、これを研究したい、そこですよね。例えばボスから研究テーマ与えられているとかじゃなくて、自分でこれを明らかにしたい、そういったアイデアを持っている方に、ぜひチャレンジしていただきたいですね。
インタビュー後編に続きます。