基礎研究と実学は一体、産業界との連携を意識した研究プロセス

理化学研究所は、設立当時(財団理研、1917年)から”産業の発展のため、純正科学の研究を成し、また同時にその応用研究をも成すものである。”、”純正科学に基礎を措かない全ての産業には、堅実な発展はない。”という視点が根本にあります。そのような文化の中で、「基礎研究と実学は一体」、「自分の技術が産業界で使われるとしたら、どんな形があるんだろう」と考えるようになりました。そしてそれは私の研究の産業の発展に適した形とは何か、また産業への適合に必要な活動とは何か、という考えの原動力となっていきました。

産業へ研究を適合するために必要な活動とは何か、を考える上で、もう一つの理研で得た言葉がヒントとなりました。それは、「産業界とは接触頻繁に」という言葉(1921年、大河内-当時-所長就任挨拶)です。「自分にはこんな技術がある」と一方的に産業界へ表明するだけではなく、実際に現場に行って、産業界がどういうことに困っているのか、あるいはどういうところなら共有して協業できるか、を常に考えなければいけなかったんです。このことは、実際に様々な企業の人との接触を通して学んだことです。

杉山:西谷先生の研究は産業界の人と出会うことで変化や気づきがありましたか?

西谷:産業界の切迫した技術課題やニーズだけでなく、パラダイム・シフトがなければ業界の先がない、そんな生の意見を人との出会いから得ることができました。電子源というのはソース技術なので、比較的いろんな展開が可能です。その中から産業界が必要としているものや発展させるものの指標みたいなものをいくつか拾うことが出来ました。そして優先順位を付けて考えていく。そのようなプロセスで研究を進めてきました。だから、ここに至るまでの基礎的な技術はそもそも産業界にマッチするように積み上げてきたものです。

杉山:それは一般的な研究者のプロセスとは違いますよね?

西谷:だいぶ違うと思います(笑)。研究者はどちらかというと自分のやりたいことが起点になりますよね。企業と研究者がお互いの間合いを量りながら研究を進めること、「相手が欲しいものはこういうものかな」「我々でちょっとやってみましょうか」、そんな姿勢で、一緒になって取組む雰囲気作りが大切だと思います。一見簡単な事のように思えるのですが、実際にはアカデミックな現場にいると一番難しい事なのかもしれません。

名古屋大学 知財・技術移転グループ鈴木孝征特任助教

米大学ラボのオープンな現場、研究実用化にこだわりURAへ

杉山:鈴木さんは農学の研究者だったとうかがっています。

鈴木:はい、私は名古屋大学の生命農学研究科のドクターコースで研究をスタートさせました。その時はバイオ系、遺伝子を改変する方法を研究していて、遺伝子治療や医療での応用を想定して学生研究者時代から実用・応用化指向で研究をしてきました。例えば非常に感度が高い検出系を作ったり、動物でデータを積み重ねたり、論文も出しました。

で、卒業前の12月になってどうしようと。いろいろポスドク先を探していたのですが、その一つにアメリカのデラウェア大学に当てがありまして。デラウェア大学には、学生時代に取組んでいた研究の源流のようなラボがあって、そこからのレビュー執筆の依頼を受けるなどやりとりがあったのですが、「空きがあるから来ないか?」と。アメリカで研究経験積めるし、英語の勉強にもなるし、渡りに船と思い行きました。。

向こうでも応用化指向の研究をしていたのですが、そこで凄く不思議なことがあって。ラボミーティングがあると、ベンチャーキャピタルの人とか弁理士とか、ベンチャー企業の社長とかが来るんですよ。「えっ、研究ってそんな人達にオープンに聞いてもらっていいんですか?」って。研究の実用化には研究だけではなく、他にもいろんな要素が必要ということを実感しました。

そのままそこで研究をしていく道もあったのですが、やはり研究の実用化を一番念頭に置いてきたので、「そのための必要な要素を身に付けたい」というマインドが強くなりまして。帰国した際に、渡米前からお世話になっていた名古屋大学の産学連携本部での仕事にアプライしてみないか?という話をいただきました。実地的に経験を積みながら実用化に必要な要素を学べる、と思い5年前に着任しました。

そこからはもう大学の知財の仕事、権利をどう押さえるか、どうやって企業にライセンスなり共同研究に持っていくか、加えて起業・大学発のベンチャー支援などを担当して今に至ります。

杉山:研究実用化のための周辺要素やそのプロセスに興味をもたれた、ということですけども、バイオ研究はどこに…?

鈴木:あ、そうですよね。別にこだわりがなかった訳ではないんですけど(笑)。今の仕事をはじめた時もバイオを主担当としてやってきましたが、名古屋大学は総合大学ですので、工学もあれば情報もありといろいろです。各領域を担当していく中でバイオに限らず「実用化に必要なベース」というか、それぞれの分野で特殊な事柄はあるのですが、そこはやっぱり共通要素みたいなものがあり、そこを身に付けてきたかなと思います。研究の実用化という点では、バイオでないと、というのはあまりなくて。なんでしょうかね、そもそも大学が好きなんですよ。研究や先生が凄くかっこよく見えるんです(笑)。最先端の、今まで世の中になかったようなことを作り出していることに対して、どちらかといえば、バイオという分野よりそこに魅力を感じていたのかもしれませんね。

杉山:現在はURAということですが、いずれご自分のバイオの研究に戻るということは?

鈴木:考えていません(笑)。技術の事業化が凄く面白くて。研究も面白かったのですが。

(インタビュー中編に続きます)

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