いま、大学は大きい変革期を迎えています。その背景には、少子高齢化にともなう大学間の競争激化、グローバル化やITの進歩によって急速に変わりつつある大学教育へのニーズなどがあります。そこで注目されているのが「大学IR」です。しかし、実際に大学IRへの取り組みをはじめると、解決すべきさまざまな課題が見えてきます。ここでは、大学IRが必要とされる背景や課題、解決方法などについて整理してみました。
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厳しさを増す大学を取り巻く経営環境と大学IRの取り組み

現在、日本の大学を取り巻く経営環境は厳しさを増しています。少子高齢化にともなう学生獲得競争の激化、定員割れ大学の増加、増加する退学者などは、多くの大学にとって喫緊の課題です。特に私立大学においては、44.5%(平成28年度)の大学が入学定員を満たしていないという厳しいデータも報告されています。

出典:日本私立学校振興・共済事業団の発表資料

大学に求められる役割も急速に変わりつつあります。従来の基礎学力や専門知識を持った人材だけでなく、これらの知識を活用して多様な人々と仕事をするのに必要な基礎的な能力(21世紀型スキル)を持つ人材を育成することが求められています。

そのための新たな教育手法も模索されています。たとえば、キュレーション学習もその1つです。これは、Web検索やソーシャルメディアなどの情報を活用し、他者と共同作業しながら、複数の意見やものの見方を通じて課題解決を図るスキルの開発を目指すものです。

経営環境の変化、大学に求められる役割の変化に対応するため、いま、多くの大学が取り組んでいるテーマが大学IRの強化です。大学IRは、大学の経営改善や学生支援、教育の質の向上を目的に、学内のさまざまなデータを収集・分析し、客観的なデータ(エビデンス)に基づいた改善施策の立案・実行・検証を行う取り組みのことです。

政府も大学改革を積極的に支援

大学の改革は、政府も積極的に支援しています。たとえば、文部科学省の平成28年度「私立大学等改革総合支援事業」においては、「教育の質的転換」「地域発展」「産業界・他大学との連携」「グローバル化」の4つタイプを挙げ、タイプごとに大学を選定して、経常費・設備費・施設費の支援を行っています。

支援を受けるには「私立大学等改革総合支援事業調査票」で一定以上の得点を獲得する必要があります。調査票は詳細な項目に分かれていますが、たとえばタイプ1の「教育の質的転換」であれば、「IR担当者の設置及び専任の教職員の配置」「教員の評価制度の導入」「入学者の追跡調査等による選抜方法の妥当性の検証の実施」といった項目が含まれています。これらは、文字どおり大学に対してIRの強化を求めたものに他なりません。

また、国立大学の第三期中期計画においても、多くの国立大学がIRの活用・分析を重点的な取り組みとして打ち出し、定量的・客観的なデータに基づいた経営戦略の立案、学内資源の再配分などの措置を実施することを明記しています。

大学IR強化に不可欠な学内データ統合とITの活用

ただし、大学IRの強化はけっして容易ではありません。たとえば、入学者の選抜方法の妥当性を検証するためには、学生の入試テストの結果から、入学後の活動履歴、試験の結果、就職先などをすべて追跡・記録する必要があります。こうしたデータがなければ、選抜方法の妥当性を検証することはできないからです。

そのためにはICTの活用が不可欠ですが、多くの大学のICTシステムは、入試情報、成績情報、人事情報などを管理するシステムが部門ごとに導入・運用され、システムごとに学生のマスタ情報が異なるなど、お互いに連携していないサイロ型となっているのが実情です。これでは、仮にIRの専任者を配置しても、効果的な分析を行うことは困難です。せいぜい、各システムからデータを手動で抽出し、Excelで分析することくらいしかできないでしょう。

したがって、いま求められていることは、サイロ化したICTシステムに分散しているデータの集約・統合です。具体的には、学生の「学び」に関わるあらゆる記録をデジタル化して残すシステム(eポートフォリオ)を整備し、日々生み出される研究成果、学内のその他のシステムのデータを収集・蓄積し、学内のすべてのデータを一元的に管理・分析できる統合データベースを構築することだといえます。

今こそ求められる大学内統合データベースと分析基盤

いうまでもなく、構築した統合データベースは、大学改革を推進するための基盤となります。このデータベースを使えば、学生の入学から卒業までのあらゆる活動が見える化できるので、たとえば入試結果と学生の所属学部、成績と就職先の関係を分析したり、学生の退学に結びつく予兆を検知して、事前に対策を打ったりすることも可能になります。

あるいは、成績の傾向を分析して、入試制度や指導方法の改善に役立てたり、図書館の利用状況と成績の相関を調べて、図書館のサービス改善に役立てたりすることも可能です。

また、IoTを活用すれば、これまでは取得していなかったデータを取得し、新たなサービスに活かすことも可能です。たとえば、脈拍や血圧などの学生の生体情報を取得して健康管理に役立てたり、食堂での食事データを収集して食事指導やメニュー開発に活用したりする取り組みも可能でしょう。

蓄積したデータが膨大になれば、人工知能(AI)を活用したビッグデータ解析も実現できます。Googleの開発したAIが、人間のプロ棋士に勝利したことがニュースになるなど、AIの進歩は目覚ましいものがあります。また、クラウドの進展により、高度なAI技術や分析基盤を手軽に利用できる環境も整備されつつあります。ごく近い将来、学生の学習指導や就職指導はもちろん、大学の戦略立案や経営資源の最適化にもAIが活用されるようになるのは間違いありません。

ただし、現在のサイロ化されたICTシステムでは、こうした未来の実現は困難です。したがって、いま求められているのは、未来を実現する準備、つまり大学内のデータを統合し、分析できる環境を整備することだといえます。

そしてそれが、冒頭に述べた大学が抱えている課題、すなわち経営環境の変化、大学に求められる役割の変化に対応し、大学独自の価値を生み出していく第一歩となるのではないでしょうか。

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