筑波大学体育系 松井崇助教、征矢茉莉子(大学院生)、麻見直美准教授、征矢英昭教授らの研究グループは、筋の貯蔵糖質であるグリコーゲン( 注1)を増加させ、持久力を向上させる持久性アスリートが実践するポピュラーなコンデションイング方法(Glycogen Loading:以下GL)(注2)が筋だけでなく、学習・記憶能(認知機能)を担う脳部位である海馬のグリコーゲン量をも増加させることを初めて明らかにした。
また、海馬のグリコーゲン量の増加には、通常のGLに必須とされる高糖質食の摂取は不要である事もあわせて明らかにした。本研究の成果は、1月19日付でNature誌のScientific Reportsに掲載された。

研究報告によると、以前から、筋の貯蔵糖質であるグリコーゲンを増加させることで、持久性パフォーマンスの向上に効果があることが知られてた。この現象を応用し持久性アスリートの試合前1週間のコンディショニング法として高糖質食と運動を組み合わせた「グリコーゲンローディング」は古くから実践されていた。
一方、グリコーゲンは脳にも存在しており、ニューロンの重要なエネルギー源として、学習や記憶を司る海馬において長期記憶形成に必須であることが明らかにされている。
これまでに研究グループは、海馬のグリコーゲンが一過性疲労困憊運動で減少し、その後超回復することを見出しており、筋と同様にGL が脳、とりわけ海馬に対しても有効であるとの仮説を立て検証を行った。
実験は、1週間のGLラットモデル(カロリー比70%の糖質を含む高糖質食摂取に加え、初日に激しい運動、その後3日間に軽い運動を課し、最後の3日間に休養)とマイクロ波照射装置(脳グリコーゲン測定のゴールデンスタンダード)を用いて、GL が海馬グリコーゲン量に及ぼす影響を検証した。検証の結果、海馬グリコーゲン量の増加には、筋や肝臓とは異なり、高糖質食ではなく GL 初日に行う激しい運動が必須であることを見出した。

前述のGLだけでなく、ウエイトリフティングなど、肉体に対する効率的なトレーニング方法は多数存在するが、今回の研究成果は(比較的短期間において)アタマ(海馬)を標的にした学習・記憶能(認知機能)向上トレーニング法が確立できるかもしれないという点だ。
研究報告では今後の展開として

今後は、高い海馬グリコーゲン量が認知機能に及ぼす影響を解明しながら、1週間で認知機能を高める「海馬GL」を確立することで、2020 年東京オリンピック・パラリンピックに向けたアスリートのハイパフォーマンスはもちろん、受験生や社会人の認知パフォーマンス発揮を助ける新たな運動・栄養戦略として役立つことが期待されます。

としており、スキル向上したいビジネスパーソンや受験生にはまさに光明となりうる。また、それに伴いフィットネス、教育系産業にも大きな影響を与えるかもしれない今後の研究に期待したい。

本研究は、文部科学省特別経費プロジェクト「ヒューマン・ハイ・パフォーマンスを実現する次世代健康スポーツ科学の国際研究教育拠点」(征矢英昭代表、平成 26〜30 年度)、ならびに科学研究費補助金新学術領域研究「意欲と身心パフォーマンスを共に育む次世代運動プログラム(征矢英昭代表、16H06405)」、「挑戦的萌芽研究(征矢英昭代表、23650384)、若手研究 A(松井、16H05920)、学術振興会研究奨励費(征矢茉莉子、16J05042)の助成による。

  • (注1)グリコーゲン:
    グルコースがα-1、4-およびα-1、6-結合により連なった生体における貯蔵糖質。末梢組織では筋や肝臓などの細胞内に多く存在している。脳ではグリア細胞の一種であるアストロサイト内に貯蔵されている。
    脳グリコーゲンは活動に伴い酸へと分解され、モノカルボン酸トランスポーターを介してニューロンに取り込まれ、エネルギー基質として利用される。近年、脳グリコーゲンは記憶形成や持久性能力において重要な役割を担うことが明らかとなり注目される。
  • (注2)グリコーゲンローディング(Glycogen Loading:GL) :
    持久性アスリートの試合前約1週間のコンディショニング法。高糖質食摂取と運動を行うことで筋グリコーゲン量を増加させ、持久性能力を高める効果がある。一過性の疲労困憊運動後に筋グリコーゲン量が減少し、その後、高糖質食を摂取することで一時的に運動前より増加する「グリコーゲン超回復」を基盤としている。