サザエ

岡山大学大学院環境生命科学研究科の福田宏准教授は、欧米の古文献を再調査し日本のサザエが、これまで有効な学名をもたず、事実上の新種として扱われるべきであることを解明。サザエの学名を新たに「Turbo sazae Fukuda, 2017」と命名した。
本研究成果は5月16日、日豪共同刊行の軟体動物学雑誌「Molluscan Research」電子版に公表された。

国民的テレビアニメの主人公の名前にもなっている程、日本ではポピュラーな貝類“サザエ”。そのサザエにこれまで有効な学名がついていない(学術上は“新種”扱い)という驚愕の事実が判明した。なぜこのような事になってしまったのか。

今回の研究成果によると、過去の分類時における混同により発生してしまったようだ。その経緯を簡単に要約すると以下となる。

1786年に別種のナンカイサザエ(中国産)と混同され「Turbo cornutus」とされた。

さらに、シーボルトが採取したサザエは「Turbo japonicus」と命名されたものの、別種のモーリシャス産サザエと混同され、なぜかその後、モーリシャス産サザエの学名として「Turbo japonicus」が固定されてしまった。

1995年にナンカイサザエ(中国産)は、新種「Turbo chinensis」と識別されたが、この時記載されるべきはナンカイサザエではなくサザエの方だった。

結果、ナンカイサザエには「Turbo cornutus」と「Turbo chinensis」の学名が複数ついている事になり「Turbo chinensis」は新参異名で無効名、「Turbo japonicus」はモーリシャス産サザエの学名に固定されており日本のサザエの学名には使えない。

以上により、日本のサザエに有効な学名がついていない事が判明した。

要約して書いてもなかなか複雑な感じだが、福田宏准教授はライトフット(Lightfoot, 1786)の原記載(学名の原典)を見直す事で「Turbo cornutus」がサザエではなくナンカイサザエである事を確認し、サザエに正式な学名がついていない事を判明させたのが今回の成果だ。

地球上に存在するあらゆる動物種において、学名を記載・命名されなければ、生物学上、正式に認知されたことにならない。サザエはおよそ250年のあいだ有効な学名がないまま美味しくいただかれていたことになる。

研究報告内容によると

その途方もなく長い間、上記の誤りが気付かれなかったのは、18 世紀の稀少文献の閲覧が難しかったことも要因の一つです。しかし、それにもまして大きいのは、「サザエのようなよく知られた種の同定が間違っているはずがない、学名がないはずがない」という研究者の先入観、思い込みにあったように思われます。

とし、

昨今は生物多様性とその保全が重視されるようになりましたが、その最も基礎をなすべき命名と同定の信頼性が揺らぐと、例えば、保全すべき稀少種と駆逐すべき外来種とを混同してしまうなど(サザエは日本産と中国産が混乱していたのですから)、当初の目的と真逆の弊害をもたらしかねません。

正確な種の同定は、学術上の問題にとどまらず、保全活動といった実際の環境活動の判断・成果にも大きな影響を与えるという点を改めて示唆した点で非常に意義深い研究成果だ。これから夏の海水浴シーズンを迎えるにあたり、新たに命名された「Turbo sazae」をかみしめながら、サザエのつぼ焼きを堪能したい。