国立極地研究所(所長:白石和行)、国文学研究資料館(館長:今西祐一郎)、京都大学(総長:山極壽一)ら研究グループは、藤原定家(1162-1241)が残した『明月記』の「赤気」(オーロラ)の記述や中国の歴史書『宋史』の黒点の記載など、古典籍に残された記述と、樹木年輪の炭素同位体を比較することにより、平安・鎌倉時代における巨大磁気嵐(注1)の発生パターンを明らかにした。

研究成果は米学術誌「Space Weather」にオンライン掲載され、同誌のEditors’ Highlightに選ばれた。

研究内容によると、研究グループは、鎌倉時代初期の歌人・藤原定家の日記『明月記』に記録された「赤気」(オーロラの意)の記述に着目。複数の古典籍(「御室相承記」「宋史」)の記述と突き合せる事で、この時期に緯度の低い日本の空でもオーロラが出ていたことを科学的に確かめた。

また、本研究では過去2000年の京都の磁気緯度の計算も行いました。その結果、『明月記』が記された1200年頃は地磁気の軸が今とは逆に日本のほうへ傾いており、過去2000年間で、日本からオーロラが最も観測しやすい時期であったことが明らかになりました。この時期に、定家という偉大な文筆家が存在し夜空の情報を残していたのは、とても幸運なことと言えるでしょう。

続いて研究グループは太陽の磁気嵐発生パターンについて『宋史』の900年代~1200年代の記録と、樹木年輪の炭素同位体から太陽の活動をデータ化し比較、1年周期の太陽活動の極小期の前後よりも極大期付近に、長引くオーロラが多く記述されていることを明らかにした。

定家の観た連夜の「赤気」と、中国で観察された大きな「黒子」は、過去最悪の宇宙環境を調べる重要な手がかりが800年前にも存在することを気づかせてくれました。さらに、当時の地球を生きた樹木は太陽活動のリズムを教えてくれました。文献と年輪と宇宙との三位一体の形で、こうした発見に繋がったのです。また、このような研究は、自然科学と人文科学という、異分野の研究者が密接に協力して初めて実現できるものです。

オーロラの発生は太陽の活動(フレア)と密接な関係にある。大規模な太陽フレアが発生すると強力な磁気嵐がおこり、発生規模によっては人工衛星や電力供給、電子機器に影響を及ぼすといわれている。近年急速に電子化が進んだ現代社会において、磁気嵐による社会への影響は以前にも増して深刻だ。そういった点で過去の太陽活動パターンを分析する事は、活動(宇宙天気)の予測や対策をする上で意義深い。

本研究で得られた結果は、科学的には、将来起こりうる最悪の宇宙環境を理解、予測し、「宇宙災害」への具体的な対策を立てる上で重要です。また、人文学的側面としては、過去の宇宙環境が解明されることで、古典籍の読み方も変わってくる、つまり、当時の人々の天文観へのより深い理解に役立つことが期待されます。

なお、この研究は総合研究大学院大学の学融合共同研究事業「オーロラと人間社会の過去・現在・未来」、および、「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画」、人間文化研究機構機構長裁量経費「機関拠点型基幹研究PJにおける異分野融合研究創成に関するプロトタイププログラム作成事業」、京都大学の「宇宙における人類の総合的研究」の助成を受けて実施された。

  • (注1)磁気嵐:
    地磁気が、世界規模で数日間弱くなる現象。大規模な磁気嵐では、活発なオーロラ活動によって地上の送電網に誘導電流が流れて停電が発生したり、人工衛星の故障が引き起こされたりする場合がある。