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横浜国立大学大学院工学研究院の小坂英男教授とStuttgart大学(ドイツ)の研究グループが、量子通信に用いる光子[注1]を量子メモリー[注2]となるダイヤモンド中に量子テレポーテーション[注3]の原理で転写して長時間保存する新原理の実証に、世界で初めて成功した。
本研究成果は、2016年6月6日(英国時間)発行の科学雑誌「Nature Photonics」に掲載された。

量子力学の性質を利用する事で、強固な安全性を保障する次世代暗号通信技術として「量子通信」技術の研究が世界各国で行われている。既に100km程度の限定的な距離については実用化に向けた試験がすすめられている。しかし、数100kmといった、都市間ネットワークを構築する方法についてはこれまで見つかっていなかった。現状で長距離ネットワークを構築するとした場合、直接光子が届く限界距離ごとに量子通信の中継点を設ける必要がある。中継点は古典的な通信中継方式となる為、この方式では中継ノードでの絶対安全性を保証することはできないという致命的な問題が未解決となっていた。

プレスリリースによると、

今回の成果は、物質に内在する量子もつれの力を引き出すことにより、従来の量子中継である「たまたま繋がる」確率的中継方式から、「確実に繋がる」決定的中継方式に転換するための鍵となります。一旦種となる量子もつれを作っておけば、後はただ待つだけで光子の発光と吸収を繰り返し、光子が届かないような遠距離にも暗号の鍵となる量子状態を再生できるようになります。情報通信は盗聴だけでなく、さまざまなサイバー攻撃の危機にさらされており社会的問題になっていますが、国家的あるいは世界的な規模の量子通信ネットワークを構築できれば、物理法則によって安全性が保証された安心で健全な情報化社会を継続的に発展させることができます。

今回、小坂教授らの研究グループは、従来の古典的な中継手法とは全く異なる方法で、量子テレポーテーション転写を各中継点でおこなう方式を新たに開発、中継ノードでの絶対安全性を確保する長距離量子通信技術の実現に道筋をつけたのが本研究の成果だ。量子通信ネットワークの実現に向けた更なる研究に期待したい。

なお、本研究は情報通信研究機構(NICT)高度通信・放送研究開発委託研究、最先端研究開発支援プログラム(FIRST)ならびに科学研究費補助金基盤研究 A(課題番号 24244044)の支援のもとに行われた。

  • (注1)光子:
    電子が電気あるいは電流の基本単位となる粒子であるように、光子は光の基本単位となる粒子である。いずれも典型的な素粒子であり、量子でもある。電子は量子メモリーに適す一方、光子は量子伝送に適す。光子はエネルギーや力を媒介する素粒子として知られるが、ここでは量子状態を媒介する量子として光子を用いる。
  • (注2)量子通信、量子計算:
    量子通信とは、量子力学の原理を応用し、共通の秘密鍵を離れた 2者間に安全に配送する技術。この秘密鍵を用いて秘匿通信を行うことができる。量子鍵配送のイニシャルをとり QKD とも呼ばれる。この技術の延長線上には、量子の超並列処理特性を利用した量子計算がある。
  • (注3)量子テレポーテーション:
    量子中継の基本原理。量子もつれにある二つの量子を用意し、この片方と別の量子との間の量子もつれを測定することで、直接は相互作用していない他方の量子に量子状態を再生するもの。
関連情報
世界初!量子テレポーテーション転写に成功プレスリリース - 横浜国立大学
High-fidelity transfer and storage of photon states in a single nuclear spin - nature photonics
DOI:10.1038/nphoton.2016.103
高度通信・放送研究開発委託研究 - 国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)ホームページ
最先端研究開発支援プログラム(FIRST) - 独立行政法人 日本学術振興会ホームページ