非常に質量が大きく、その重力場から光すら抜け出せない―――SFでもおなじみの天体、ブラックホールについて非常に重要な研究観測成果が米国の科学雑誌Science誌に掲載されたので紹介したい。

国立天文台水沢VLBI観測所の秋山和徳博士(日本学術振興会海外特別研究員、米国マサチューセッツ工科大学ヘイスタック天文台所属)と本間希樹教授を含む国際研究チームは、米国カリフォルニア州、アリゾナ州、ハワイ州にある電波望遠鏡を結合させて、天の川銀河の中心にある巨大ブラックホールいて座Aスター(Sgr A*)の極近傍領域に付随する磁場の証拠を初めて観測的に捉えた。
観測からブラックホール半径の6倍程度の領域において、絡まったスパゲッティ状の複雑な磁場構造が示唆され、また、それが時間変動していることも初めてとらえられました。

現在の研究ではブラックホールは銀河形成に密接な関係があるといわれ、ほとんどの銀河の中心に超大質量ブラックホールが存在するとされている。なんとも恐ろしい感じだが、地球を含む太陽系が属する天の川銀河もその例外ではなく、天の川銀河の中心にも巨大なブラックホールが存在すると考えられている。

いて座Aスター(Sgr A*)は、いて座(地球からみて、いて座の方向は天の川銀河の中心とされる)の方向にある強い電波を放出する天体で、地球から最も近い超大質量ブラックホールが潜んでいるとされる場所でもある。
しかし、近いといってもおよそ25,000光年離れており、地球から見た時の見かけの大きさはわずか10マイクロ秒角(角度の1度の3億6000万分の1)となるため、詳細な観測をするには非常に高い解像度の望遠鏡が必要となる。

そこで、秋山和徳博士と本間希樹教授を含む国際研究グループは、遠く離れた3ヵ所4台の電波望遠鏡(米国カリフォルニア州にあるCARMA、アリゾナ州にあるSMT、ハワイ州にあるSMAとJCMT)をVLBI(超長基線電波干渉法)という技術を用いて結合させ、直径4,000kmに相当する巨大な電波望遠鏡を構成し、波長1.3ミリメートルの電波の観測をおこなった。これにより、ブラックホール周辺の磁場構造を明らかにすることで、これまでの理論モデルの枠組みを観測的に裏付けたのが今回の非常に大きな成果だ。

研究チームとともに偏光データの解析に携わった秋山和徳氏は、「スパゲッティのお皿全体を見渡すと麺が複雑に絡まっていますが、細かい部分を良く見るとある部分では麺が整列している様子が見られるでしょう。私たちはブラックホールに非常に近いところで磁場が存在することを明らかにしただけでなく、かつてない高解像度の観測によって磁力線が揃うような非常に細部の構造までとらえることに成功したのです。」とコメントしています。

ブラックホールの周囲では、降着円盤からのガス流入やジェット生成などの活動的な現象が「ブラックホールエンジン(落下物質等の遠方で持っていた重力エネルギーが、円盤やジェットから放射される輻射エネルギー(電波、光、X線等)やジェットに伴う運動エネルギーや電磁エネルギーの流れに変換される作用)」として働くと考えられており、これまでの理論モデルでは、そのいずれにも磁場が重要な役割を果たしているとされてきた。今回観測された、磁場の複雑な構造やその時間変動は、今後ブラックホール極近傍領域の物理をさらに詳しく調べる上でも貴重な情報になると期待される。

また、今回の成果は、Event Horizon Telescope(EHT)の実現に向けた重要なステップであるという。EHTは、今回結合された電波望遠鏡にに加え、ヨーロッパや南米にある電波望遠鏡をも結合させる事で解像度をさらに向上させ、ブラックホールの姿そのもの(事象の地平面)を初めて直接撮影することを狙った国際協力プロジェクト。
宇宙の謎の解明にまた一歩近づく今後の研究に期待したい。